森林計画学会ニュース(10)NEWS

総会・春季シンポジウムのご案内(第三報)(情報掲載2021/3/17)


日  時:2021年3月26日(金) 13:15~16:30
開催方法:オンライン(Zoomウェビナーを予定)
申込方法:3月20日までにシンポジウム参加申し込みフォームにて申込み
 https://docs.google.com/forms/d/e/
 1FAIpQLSfl1Kt8bNXobZAIIPDvCgbmFHHcb4vbjwtcUuih51mR_aSAtg/viewform

(申込み者にはオンラインアクセスの案内をいたします)


林業の成長産業化、SDGsと森林・林業の計画
 ~森林計画学の系譜と展望~

 長らく低迷を続けた林業は、戦後造林された針葉樹人工林を中心に造林・保育といった資源造成段階から、資源の利用期に移行してきました。そのため、政府は森林の持つ多面的機能を発揮しつつ森林資源を持続的に循環利用し、山村地域の振興を図る林業成長産業化を進めています。加えて、国際社会は「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、様々な取り組みを進めています。こうした21世紀の森林・林業の諸問題の解決には、森林資源を適確に把握し、資源の育成と、秩序のある利活用が必要不可欠です。
森林計画学会は森林・林業の計画に関わる理論や技術の発展と普及を目的とて活動し、森林・林業の持続的利用に必要な理論と技術に関する研究を重ねてきました。
前身である林業統計研究会からの名称変更後30年を迎えるに当たって、森林計画学のあゆみを振り返るとともに、21世紀の森林・林業に関する諸問題の解決に向けた森林計画学の展望を議論するシンポジウムを開催します。

■プログラム (敬称略)
■開会宣言、会長挨拶
■趣旨説明
■第一部 森林計画学の系譜、名称変更からの30年のあゆみ
     野堀嘉裕(山形大学名誉教授)
     田中和博(京都先端科学大学バイオ環境学部)
     粟屋善雄(岐阜大学流域圏科学研究センター)

■第二部 21世紀の森林・林業の諸課題と森林計画学の方向性
     井上昭夫(近畿大学農学部)
     米 康充(島根大学農生命科学系)
     當山啓介(東京大学千葉演習林)

■会員からの提言 5分/人 最大5名
 参加申込時に希望者を募集します。人数が多い場合テーマ性なども考慮して選出します。

■第三部 (総合討論)森林計画学の展望 35分程度以上
     パネリスト:話題提供者全員
     司会:髙橋正義(森林総研)

■閉会の挨拶


要旨
■第一部 森林計画学の系譜、名称変更からの30年のあゆみ

森林計画学会(林業統計研究会)から学んだこと
野堀嘉裕(山形大学名誉教授)

 1985年春の林業統計研究会参加が私にとって森林計画学会への入口だった。当時はPCが普及してきた時期でPC-Forestryで勉強した。森林計画学会への改組の頃は森林経理論争の終焉期であったが、森林資源の把握ができていないのに収穫規整は不可能で、Forest inventoryが最重要課題だと感じていた。森林計画学会の設立総会の時、当時名古屋大学の末田達彦先生と私は「森林資源計画学会」が正しいと主張していたことを忘れない。一方、家族で参加の夏季シンポジウムは大変楽しませていただいた。シンポジウムは国際化が進み、山形で台日合同シンポジウムを開催することができた。最近、SDGsが話題になっているが、林業がPDCAサイクルと収穫規整を開発した、地球上初めての生物生産業でありSDGsの先駆者であることを再認識すべきだ。山形県の長期計画を見ると、いまだに収穫規整の概念が無い。レーザー計測技術の持つ意味は正確な森林資源探査である。精度の高い森林資源探査は的確な収穫規整を提供するので、森林経理論争の到達点を意味する。ただし、収穫規整を無視すれば林業は50年前と同じ経過をたどることになるだろう。

GISによる森林空間の解析と評価 これまでとこれから
田中和博(京都先端科学大学バイオ環境学部)

 GISの民間利用はCGISが最初であるとも言われており、森林GISはGISの歴史とともに発展してきた。 当初は、データベースとしての利用が中心であったが、データ更新体制の問題もあり、やがて、空間解析ツールとして使われるようになった。日本では、1994年に森林GISフォーラムが設立され、1998年には日林協から「森林GIS入門」が、2004年には地理情報システム学会から「地理情報科学事典」が出版された。また、2004年度から森林情報士森林GIS部門の資格認定制度も創設された。応用事例としては、林道バッファー解析やエコトープ分析が行われ、それらの結果が森林ゾーニングに応用されている。また、奥行き度や土地利用多様性指数(LUDI)も提案され、解析から評価へと応用が広がっている。この間、ベクター型、ラスター型に加えて、DEMやタイルポリゴンなどへとデータの形式にも変化が見られ、特にレーザー計測の時代になり、二次元から三次元の世界へと発展してきている。今後、GISの世界は、解析・評価の時代から、予測・シミュレーションの世界へと広がっていくと思われる。以上のような内容でこれまでを振り返り、これからを展望する。

リモートセンシングによる森林資源解析の変遷とこれから
粟屋善雄(岐阜大学流域圏科学研究センター)

 今日、森林の解析に利用されるセンサは主に光学センサとレーザスキャナである。光学センサは森林情報をスペクトルから間接的に推定するため、解析精度が低い。一方、測量を目的に作られた航空レーザスキャナは、直接計測により高精度で地表物の標高を計測できる。このため、樹高の推定精度が高い。しかし、最初の衛星センサはランドサット-MSS(光学センサ)で、1984年には現在まで観測波長が継続されているTM(30m分解能)が登場した。その後、光学センサの高分解能化が進み、今日では50cm分解能で高頻度観測できる衛星システムが登場している。光学センサの場合は高地上分解能化が森林分類や伐採地判定などの解析精度を向上させた。一方、航空レーザデータは日本では2000年頃から取得例が増加し、おもに林分材積・単木材積の高精度マッピングに利用されている。近年、スキャナが高性能化するとともにデータの取得事例が増加して実利用が進むと期待される。さらに現在はUAV搭載の光学センサやレーザスキャナが開発され、林分単位のスケールで細かいニーズに応えて高精度の資源状況を提供できるようになっている。本報告ではこのような変遷の概要を報告する。


■第二部 21世紀の森林・林業の諸課題と森林計画学の方向性

成長モデル雑感
井上昭夫(近畿大学農学部)

 森林計画学会における主要な研究テーマの1つに成長モデルがある。末田(1976)は,成長モデル(数学モデル)の重要な機能として「認識の手段」と「予測の手段」の2つを挙げている。また,井上(2010)は「科学の理論は数学的な言語によって記述され,その記述は単純であるほど美しい」と述べている。自己間引きの3/2乗則は,これらの要件を満たしていたからこそ,これまで長く,広く受け入れられ,そして林分密度管理図やシステム収穫表の形で森林管理の現場に実装されたものと考える。今後においては,レーザ計測技術の発展を視野に入れた成長モデルの開発が求められる。このような新しい成長モデルにおいても,上述した3つの要件を満たすことが望ましい。

ビッグデータ時代へ向けての森林リモートセンシングデータ整備
米 康充(島根大学農生命科学系)

 スマート林業・ICT林業が推進される中、資源計測分野では、航空レーザ計測や地上レーザ計測、UAV(ドローン)計測といった新しい計測手法が普及し始めてきている。航空レーザでは広域の詳細な単木データが、地上レーザでは単木の詳細なパラメータが、UAVでは必要に応じて詳細で新鮮なデータの計測が可能となってきている。これまで間接的にしか計測できなかった材積や林分パラメータも直接計測が可能となってきている。一方、従来の様にモデルを用いた間接的な計測を行うにしても、これまで莫大な費用と人手が必要であった基礎データの収集が容易に収集できる様になっている。また、大量のデータからマイニングを行うビッグデータとしての需要も期待される。また、詳細な森林データを用いることでより正確な成長予測も期待される。新しい計測手法が普及することで、森林統計研究会・森林計画学会がこれまで培ってきた知見とこれからのモデル研究の加速が期待される。しかしながら、これらの新しい計測事業は発展途上ということもあり、都道府県、市町村、林業事業体と個別で行わわれることも多く、これらのデータの効率的な利用のためには、システマティックなデータ整備が必要になると考えられる。林野でシステマティックなデータ整備は、戦後~1980年代頃まで森林航測事業で盛んに行われていた事例がある。本題では、この頃の森林航測事業の状況を振り返りながら、現代の森林リモートセンシング整備についての話題提供を行う。

「森林計画」学は何をすべきか、どうあるべきか
當山啓介(東京大学千葉演習林)

 各種の計画学では、planningとは問題・課題の発見から始まり、実態改善のための計画実施までを含む一連の流れ(の反復)のことだと説明されることが多い。それに倣うならば「森林計画」学は、情報収集や予測技術に加えて、課題・目的設定、判断・決定手法、実施実行手法などへこれまで以上のコミットが求められるだろう。少し具体化すれば、収益性のない森林での計画目的とその達成手段とは何か、取り得るシナリオを試算・評価できるとしてそこからどう選択・判断すべきか、計画事項を現実社会で達成するための実効的制度はどのようなものか、などである。それらは「そもそも、どのような森林・林業状態を我々は達成したいのか?」という本質的問いと密接に関わる論点であり、林業採算性や森林情報といった現今の取組課題の枠組み自体も時に問い直すような議論を継続的に喚起する必要もある。
 ただ、今の時代、最も得難い資源といえば「手間」であろう。この点からは、議論醸成や情報共有に資する技術革新も積極的に取り込み、「検討のコストを下げる」ことが今後の重要な課題ではないか。

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森林計画学会事務局(田中真哉)&広報担当(渕上佑樹)
URL ; http://www.forestplanning.jp/
E-mail; jsfp_office@forestplanning.jp(@を小文字にして下さい)