2021年度森林計画学会春季シンポジウム

森林・林業におけるUAV利用の現状とその展望


 無人航空機(以下、UAV)は、森林を空から観察、調査する際に有用なプラットフォームとして、森林計測に利用可能な低価格の普及型UAVが急速に普及しています。また資材運搬などが可能な大型の業務用UAVも開発され、林業現場での活用と森林・林業に関する様々な研究開発が同時並行的に進んできています。
 本シンポジウムでは、森林・林業分野でのUAVに関する研究や林業向けの技術開発、現場利用の現状やUAVの技術的な課題や制度上の問題を整理し、森林・林業分野における今後の利活用や研究開発の方向性について議論します。
事例報告では、森林の資源調査・管理におけるUAV活用技術や新たな解析技術、造林・防災等の分野におけるUAVを利用した研究など最新の研究開発について報告いただきます。また、森林整備事業のUAVによる申請・検査等森林の各種施策でのUAV利用における現状と課題について紹介していただきます。これらを踏まえ、森林・林業分野におけるUAVの利活用や研究開発の目指すべき方向性について議論したいと思います。
 UAVを利用する研究者や学生のみならず、UAVを利用している森林・林業技術者、スマート林業など効率性の高い技術に期待を寄せる林業関係者など多くの皆様のご参加をお待ちしています。

プログラム・要旨のPDFファイルはこちらPDFファイル(843KB)

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日  時:2022年3月30日(水) 13:00~17:00 (12:30開場予定)
開催方法:オンライン(Zoomを予定、アクセス方法は追ってご案内いたします。)
申込方法:シンポジウム参加申し込みページにて申込み(先着300名)
参加申込ページURL:
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf9wBb5AHdJOtokdtun7fNWO5IWTsDvfYieNRMsDwdmsqkA6g/viewform
シンポジウム事務局(お問い合わせ):jsfp2021symposium@ml.affrc.go.jp
森林計画学会ホームページhttps://www.forestplanning.jp/

プログラム (敬称略)
13:00-13:05開会宣言、会長挨拶 松村直人(三重大学)
13:05-13:15趣旨説明 髙橋正義(森林総合研究所 森林災害・被害研究拠点)

第一部 各分野からのUAV活用事例報告
13:15-13:35事例報告①
普及型UAVによる森林資源量と病虫被害木の把握
鄧送求(信州大学)

13:35-13:55事例報告②
造林初期における下刈り省力化へ向けたUAVの活用: 苗木と雑草木との競合関係の評価
中尾勝洋(森林総合研究所 関西支所)

13:55-14:15事例報告③
土砂災害の調査におけるUAVの活用: 求められるデータの種類と質
經隆悠(森林総合研究所 森林防災研究領域)

14:15-14:35事例報告④
苗木運搬におけるUAV作業
宮城正明(住友林業株式会社 資源環境事業本部 山林部 新居浜山林事業所)

14:35-14:55事例報告⑤
AI搭載UAVの新たな展開
瀧誠志郎(森林総合研究所 林業工学研究領域)

15:55-15:05 休憩10分


第二部 森林管理におけるUAV活用への期待と課題
15:05-15:25事例報告⑥
マルチスペクトルカメラ搭載垂直離着陸(VTOL)型UAV を活用した森林管理の効率化・高度化の試み
森山誠(有限会社森山環境科学研究所)

15:25-15:45事例報告⑦
空間スケールに応じた森林計測技術の費用効果-UAVの社会実装に向けて
竹島喜芳(中部大学)

15:45-16:05事例報告⑧
森林整備事業におけるUAVの活用状況と期待
諏訪実(林野庁整備課造林間伐対策室)
小出和彰(宮城県水産林政部森林整備課)

16:05-16:15 休憩10分


第三部 総合討論16:15-17:00
話題提供者とともに、UAV技術の森林・林業分野における利用や、今後の研究開発、利活用の方向性などを議論します。
    司会:髙橋正義(森林総合研究所 森林災害・被害研究拠点)

閉会の挨拶 副会長

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第一部 各分野からのUAV活用事例報告
事例報告①
普及型UAVによる森林資源量と病虫被害木の把握

鄧送求(信州大学)
近年、画像解析技術の発展に伴い、機械学習や深層学習を含めた人工知能が様々な分野に活用されている。森林計測分野においても、リモートセンシング技術と人工知能を組み合わせた技術開発が進んでいるが、林業現場の普及までは多くの課題が存在している。本発表では先行研究として、比較的新しいリモートセンシング技術であるUAV写真測量と人工知能を統合したスマートな森林資源計測と病虫害モニタリングの技術開発事例を三つ紹介する。一つ目はRGBオルソ画像や樹冠形状情報に深層学習手法を適用し、自動での針葉樹の単木樹冠抽出と樹種推定が可能かつ、他サイトへのモデル転用ができる手法の開発である。使用した主な手法はMask R-CNNである。二つ目はRGB画像のみを用いたマツ枯れ被害木の自動検出の試みである。本事例では、自動検出のアルゴリズムとして物体検出手法の一つであるYOLOモデルを使用し、長野県上田市武石鳥屋地区の画像を訓練データ、信州大学農学部構内演習林の画像を検証データとしてモデルの学習および汎化性能の検証を行った。三つ目は秋田県仙北市のナラ枯れ被害木を対象として、RGB画像と機械学習手法を用いてナラ枯れの枯死木、感染木及び健全木の分類を行った。

事例報告②
造林初期における下刈り省力化へ向けたUAVの活用: 苗木と雑草木との競合関係の評価
中尾勝洋(森林総合研究所 関西支所)

苗木の植栽初期において、その成長を大きく制約する原因の一つに、草木繁茂による光環境の悪化がある。この影響を軽減するため、通常は繁茂した草木を刈り取る下刈りが行われる。一般的に下刈りの実施は、既往の実施計画、担当者の見回りなどに基づいて判断されるが、植栽地において苗木や草木の成長は、日照や水分条件の違いから植栽地内で一様ではない。同じ植栽地内でも草木が旺盛に繁茂する場所と比較的まばらな場所が混在している。本発表では、このような場面でのUAVの活用を紹介する。具体的には、UAV空撮画像を統計モデルや機械学習を用いて解析し、苗木個体の抽出や苗木と草木との競合状況を定量的に評価する手法を検討した。UAVによる競合状態の評価結果と既存評価手法による測定結果は、概ね良く対応し、造林地内における不均質な草木の繁茂を捉えることができた。さらに、無下刈区を含む試験地において、同手法から下刈り前後での競合状況を比較したところ、下刈り効果を評価できた。このようなアプローチは、造林地全体での草木の繁茂や苗木との競合関係を効率的に把握できるため、見回りコストを減らしつつ、必要なタイミングかつ場所での下刈り実施に活用可能と考えられる。

事例報告③
土砂災害の調査におけるUAVの活用: 求められるデータの種類と質
經隆悠(森林総合研究所 森林防災研究領域)

山地で発生した土石流や斜面崩壊は,長距離を移動し,広範囲で住民に被害を及ぼす危険性がある。このような土砂災害の発生条件や規模を調べるためには,現地調査が不可欠である。しかしながら,土石流や斜面崩壊の発生域は,地形が急峻で複雑である上に,被害を受けた地域は運搬された土砂や流木が堆積しており,災害直後は移動が難しい。つまり,調査の対象となる領域は近づくことが難しく,地上での調査は多大な人的・時間的な労力を必要とする。近年の消費者向けの高品質なUAVと空撮画像を用いた写真測量の普及により,これらの従来の土砂災害の調査における課題の多くが解決され,比較的安価かつ容易に地形データや空撮画像が得られるようになった。本発表では,実際の調査事例を示し,UAVの活用による取得可能なデータの空間解像度,調査の頻度,撮影の自由度の向上が,土砂災害の調査をどのように改善したのかを紹介する。そして, UAVを用いた土砂災害の調査において,求められるデータの種類と質が目的に応じてどのように異なるのかを示し,現状の課題と将来の展望について説明する。

事例報告④
苗木運搬におけるUAV作業
宮城正明(住友林業株式会社 資源環境事業本部 山林部 新居浜山林事業所)

現在、日本の人工林の多くは主伐期を迎えており、森林資源の循環利用が求められる中で、主伐面積の増加に伴う再造林面積の増加が見込まれる。しかし、急峻な植栽現場では、車両運搬ができず人力運搬となるだけではなく、高低差があるために強度の労働が強いられている。一方で、植栽を含む育林従事者が近年急激に減少しており、高齢化も伴い担い手不足が問題となっている。そこで、近年様々な分野で活用・普及が進む「ドローン」に着目し、林業における植栽の省力化・効率化の実現を目指して、住友林業株式会社と株式会社マゼックスが共同で林業用運搬ドローンの開発に取り組んだ。両社は、再造林の現場での実証試験を繰り返すことで、山間部特有の気候や地形にも対応できるドローンの開発を目指し、2020年2月にマゼックスより「森飛(morito)」の販売を開始した。その後、全国で「森飛」の販売活動を実施する中で、現場から挙がってくる課題や要望をもとに機体の改良や機能の拡充を行い、2022年春にバージョンアップ版の販売を開始することになった。本発表では、これまでの「森飛」による苗木運搬の取組みと、販売を行う中で見えてきた課題と、その課題への対応について紹介する。

事例報告⑤
AI搭載UAVの新たな展開
瀧誠志郎(森林総合研究所 林業工学研究領域)

非GNSS環境下の森林内で安全にUAVを飛行させることができればSfM(Structure from Motion)により森林内の三次元点群モデルを構築できる可能性があり,森林内調査の簡便化,省力化が期待できる。しかし市販されている多くのUAVでは非GNSS環境下での安全な飛行は困難であった。このような中,機体周囲の障害物をリアルタイムで認識・自動回避しながら飛行でき,またV-SLAMによる機体制御が可能な非GNSS環境下においても安全に飛行できるAI搭載UAV(Skydio 2)が登場した。Skydio 2のような森林内飛行が可能なUAVは,効率的に森林内の情報を高精度なデジタルデータとして取得することができることから「林業DX」の実現に資する有効なツールである。本発表では,Skydio 2による森林内調査への活用の可能性を明らかにすることを目的に,Skydio 2の森林内飛行の可否評価およびSfM処理による森林内の三次元点群モデルの構築を行った結果を報告するとともに,今後の課題および展望について紹介する。


第二部 森林管理におけるUAV活用への期待と課題
事例報告⑥
マルチスペクトルカメラ搭載垂直離着陸(VTOL)型UAV を活用した森林管理の効率化・高度化の試み
森山誠(有限会社森山環境科学研究所)

愛知県内段戸国有林において、マルチスペクトルカメラを搭載した垂直離着陸(以下VTOL)型無人航空機(以下UAV)を用いた広域調査による森林管理の効率化とインターネット地理情報システムを用いた病虫等の被害木早期発見を試みた。その結果、VTOL型UAVは広範囲を調査でき、マルチスペクトル画像から算出された正規化植生指数(Normalized Difference Vegetation Index, 以下NDVI)を用いることで病木を早期発見することが出来た。VTOL型UAVは狭い林道から離着陸でき、一度の飛行で50ha弱程度飛行できた。離着陸できる場所が限られる森林では、少ない飛行回数でより広範囲の調査面積が求められる。VTOL型UAVとマルチスペクトルカメラを活用することは森林管理の効率化・高度化につながるものと考えられる。

事例報告⑦
空間スケールに応じた森林計測技術の費用効果-UAVの社会実装に向けて
竹島喜芳(中部大学)

森林空間には多様なステークホルダーが存在する。こと森林管理や林業経営に関しても立場が異なるステークホルダーが存在し、森林の現況把握や将来予測のための森林計測技術の最適解(例えば樹種、材積、樹高)は、本来それぞれ異なっているはずである。しかし、10数年前までは森林計測手段は限られ、各ステークホルダーの最適解が見えにくかった。しかし近年、UAVやロボティクス技術の進展で、多様な技術が登場し、技術的側面から最適解を得やすくなってきている。そこで本発表では、UAVに着眼し、森林管理や林業経営に必要な空間スケール毎の森林計測技術の最適解について、技術の特徴や費用感、配慮すべき安全面を整理しつつ、データ計測の担い手や社会の仕組みについても、それら技術の社会実装を前提に考察する。

事例報告⑧
森林整備事業におけるUAVの活用状況と期待
諏訪実(林野庁整備課造林間伐対策室)

 林野庁においては、森林整備事業の補助申請及び検査にUAV技術を活用していく観点から、2020(R2)年3月、関連通知を改正し、申請書類にオルソ画像等の添付を可能とするとともに、画像等から作業の実施状況が把握できる場合には現地検査を行わない旨を明確化した。この通知の改正を受け、36県において規定類の整備が行われ、実際の申請等も順次行われるようになっている。本報告ではこれらの概要を紹介する。
小出和彰(宮城県水産林政部森林整備課)
令和2年度より、森林整備事業の補助金交付申請や竣工検査においてGISデータやオルソ画像の活用が可能となったこともあり、宮城県ではスマート林業の一貫としてドローンの利活用による業務効率化に取り組んでいる。
森林整備の施行地は山間部の傾斜地であるが、安全かつ効率的に必要な精度や画像解像度を確保しながら調査を行うためには、航空法の規制(対地高度150m未満)の範囲内で、ドローンを対地高度一定で飛行させることが望ましい。このため本県では、対地高度一定での飛行が可能なドローンを配備しており、事業体に対しても同機能を有したドローンの導入を推奨している。また、森林整備事業関係要領の整備と併せて、国土地理院が公開している数値標高モデルを活用した飛行方法や、SfMソフト及びGISによる解析・測量手法をとりまとめたマニュアルを整備したほか、各種研修を開催して県及び事業体職員の技術向上に取り組んでいる。本発表では、これらの取組内容及び今後の課題について報告する。


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森林計画学会事務局(田中真哉)&広報担当(渕上佑樹)
URL ; http://www.forestplanning.jp/
E-mail; jsfp_office@forestplanning.jp(@を小文字にして下さい)